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大阪地方裁判所 昭和45年(行ウ)91号 判決 1973年11月27日

大阪市東区南本町二丁目三一番地丸忠第二ビル内

原告

大亜物産株式会社

右代表者代表取締役

吉川忠雄

右訴訟代理人弁護士

松本保三

大阪市東区船場中央一丁目四番地センバセンタービル二号館

被告

東税務署長

武市正太郎

大阪市東区大手前之町一番地

被告

大阪国税局長

丸山英人

被告両名指定代理人

検事

竹原俊一

訟務専門職 山田太郎

大蔵事務官 岡本実

久下幸男

鈴木淑夫

右当事者間の更正処分取消、審査請求棄却裁決取消各請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  被告東税務署長が昭和四四年一一月二七日付でした原告の昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度の法人税更正処分のうち所得金額五、〇一三、九五一円を超える部分を取消す。

二  被告東税務署長に対するその余の請求および被告大阪国税局長に対する請求はこれを棄却する。

三  訴訟費用は原告と被告東税務署長との間においては原告に生じた費用の五分の二を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告大阪国税局長との間においては全部原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告東税務署長が昭和四四年一一月二七日付でした原告の昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度の法人税更正処分のうち所得金額一、六二四、五〇一円を超える部分を取消す。

2  被告大阪国税局長が昭和四五年四月二五日付でした原告の審査請求を棄却する旨の裁決を取消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は韓国商社との輸出取引を事業の一部とする会社であるが、昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度の法人税につき、被告東税務署長(以下被告署長という)に対し、所得金額を一、六二四、五〇一円として確定申告をしたところ、被告署長は昭和四四年一一月二七日付で所得金額を七、〇二三、九四九円、法人税額を二、三〇一、二〇〇円と更正し、さらに重加算税五六八、二〇〇円の賦課決定をなし、そのころこれを原告に通知した。

2  そこで、原告は同年一二月二七日被告大阪国税局長(以下被告局長という)に対し審査請求をしたが、同被告は昭和四五年四月二五日付でこれを棄却する旨の裁決をし、原告は同月二七日右裁決書謄本の送達をうけた。

3  被告署長のした本件更正処分には以下に述べるとおり、原告の所得を過大に認定した違法がある。

(1) 原告は、本件事業年度において、名古屋市中区錦町二丁目一四の二七訴外豊島株式会社名古屋支店(以下訴外豊島という)と提携して、韓国側の代理業者である訴外金龍伯(訴外新進商易株式会社の代表理事、以下訴外金という)の仲介により、同国の商社である訴外正和繊維産業株式会社等と輸出取引をした。

(2) ところで、韓国商社との交易は韓国側代理業者(バイヤー)の仲介によつてなされるのが一般で、その介在なしに交易をなすことは極めて困難である。そして、右代理業者に対する斡旋手数料(バイヤーコミッション)、韓国側輸入商社に対する口銭を支払わずに輸出取引はできない実情にあるから、右手数料、口銭は対韓貿易をなすについて必須の営業費用である。

(3) しかるに、被告署長は、このような実情を無視して訴外豊島が、昭和四三年四月一六日ころ大阪市内の第一銀行本町支店の訴外金名義の普通預金口座に同人に対するバイヤーコミツシヨンとして振込んだ二、三九九、四四八円および右豊島が訴外正和繊維産業株式会社および訴外新進商易株式会社に支払うべき口銭三、〇〇〇、〇〇〇円合計金五、三九九、四四八円について、違法にも、原告の本件事業年度の所得と認定し、原告申告にかかる所得に右同額を加算して、本件更生処分をした。

よって、本件更正処分における所得金額七、〇二三、九四九円のうち一、六二四、五〇一円(七、〇二三、九四九円から五、三九九、四四八円を差引いた額)を超える部分の取消を求める。

4  被告局長のなした本件裁決には次のような瑕疵がある。

(1) 裁決書には、原告の審査請求を棄却する理由として「・・・受取手数料の支払経過とその明細、豊島株式会社との輸出基本契約、取引の内容、取引関係者の申立等について審理した結果、請求人が昭和四四年八月七日提出した誓約書のとおり、この受取手数料は請求人の所得である」との記載があるが、これだけでは受取手数料(口銭)を原告の所得と認定した理由が明らかでない。特に、引用されている誓約書は原告の取締役経理部長であつた山本啓之が錯誤に基づき作成提出したもので、その旨原告は審査請求において主張しているにかかわらず、これを認定資料に供したことについては何らの説明もなされていない。

(2) 被告局長は、審理を尽すことなく本件裁決をしている。

よつて本件裁決は違法として取消さるべきである。

二  被告らの請求原因に対する認否

1  請求原因1、2は認める。

2  請求原因3、4についてはそれぞれ次に述べるとおりである。

三  被告らの主張

(被告東税務署長)

1 原告は訴外豊島との提携により請求原因3(1)の輸出取引をするにつき、売上利益は双方で折半する旨の契約を締結し、利益は訴外豊島から受取手数料として獲得していた。

しかるに、本件事業年度の原告所得金額には、右の受取手数料五、三九九、四四八円の脱漏が認められたので、被告はこれを申告所得金額に加算して、更正処分をした。

右の脱漏した受取手数料の経緯を示すと、次表(以下取引表という)のとおりである。

<省略>

右表中1ないし6は訴外正和繊維産業株式会社との輸出取引に関するもので、A欄は売上利益であり、原告が取得した利益はその二分の一に相当し、B欄のとおりであるにかかわらず、原告が確定申告時に提出した損益計算書に営業収益として計上した金額は、C欄のとおりで、その差額相当額である「D差引脱漏額」欄記載の全額は、所得脱漏である。

同表7は訴外新進商易株式会社との輸出取引に関するもので、原告は、バイヤー口銭の名目で一二一、八三四円および売上利益から右口銭を控除した残額を折半した六四、八〇二円の合計一八六、六三六円を訴外豊島から受取つたにもかかわらず、右の六四、八〇二円のみを受取手数料として計上し、右のバイヤー口銭の名目で受取つた金額は除外していた。

同表8は訴外豊島が輸出取引にかかる特別口銭として原告に支払つた手数料であるところ、原告はこれを本件所得から除外していた。

2 原告が訴外豊島から取得した手数料等が原告に帰属することは、次の事実によつても明らかである。

(1) 訴外豊島は、右金員のうち二、三九九、四四八円を原告の依頼により、原告が設定した第一銀行本町支店の訴外金名義の普通預金口座に振込み残金三、〇〇〇、〇〇〇円は、訴外豊島が、原告の了解のもとに、原告会社の代表取締役吉川忠雄(以下単に訴外吉川という)個人に対して有していた手形債権八、〇〇〇、〇〇〇円のうち三、〇〇〇、〇〇〇円の債権の回収に充当した。

なお、訴外金龍伯は訴外吉川(韓国名金龍守)の実弟である。

(2) 第一銀行本町支店の訴外金名義普通預金口座の前記振込金二、三九九、四四八円および翌事業年度の受取手数料等二九二、四七一円、預金口座開設当初の預入額三、〇〇〇円と利息二、七四五円の合計二、六九七、六六四円は昭和四三年四月一八日から同年七月一八日までの間、五回にわたつて払戻されているが、うち三回は訴外吉川自ら銀行店頭において払戻を受けている。

これは、右金龍伯名義の普通預金はすべて一たん原告会社の所得に帰属し、これを吉川忠雄個人が恣意に利用したとみられる。

(3) 訴外吉川個人に対する受取手形債権の未決済額に充当された三、〇〇〇、〇〇〇円について、原告は、訴外豊島が韓国商社である訴外正和繊維産業株式会社等に支払うべき口銭であると主張するが、現在に至るまでこれが右会社に支払われた事実はなく、訴外豊島にはこれを支払う義務がない。

(4) 当時の原告会社取締役経理部長であつた訴外山本啓之は、前記脱漏金額が、原告の法人所得の隠ぺいであつたことを認める書類(乙第三・第四号証)を提出している。

3 そこで被告署長は、原告の右脱漏所得五、三九九、四四八円を申告所得額に加算して、本件事業年度の法人税額を算出し、また、右の金額は明らかに所得を脱漏して申告した不正行為に基くもので仮装隠ぺいに該当するから、国税通則法第六八条第一項により重加算税を賦課決定した。

(被告大阪国税局長)

1 被告局長は、本件裁決書に請求原因4(1)のとおりの理由を付記したが、本件のごとく係争金額が代理業者、相手方商社に支払われたか否かの事実認定に関する審理にあつては、その経過を克明に記述する要はなく、本件裁決書にあるとおりの記載で十分である。

2 被告大阪国税局長は十分審理を尽したうえ本件裁決をした。

四  被告らの主張に対する認否

(被告東税務署長の主張につき)

1 1のうち、原告が訴外豊島と提携して輸出取引をなしたことは認める。本件事業年度の原告の申告所得金額に、受取手数料の脱漏があることは否認する。

2 2の(1)のうち、訴外豊島が二、三九九、四四八円を訴外金の口座に振込んだことは認めるが、その余の事実は否認する。

2の(2)のうち、訴外金名義の預金を訴外吉川個人が利用したことは否認する。

2の(4)は否認する。

(被告大阪国税局長の主張について)

1 1は争う。

2 2は否認する。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第三号証提出

2  証人浜田広一の証言援用

3  乙第七号証の一ないし八、第八号証、第一三号証、第一四号証の一、二、第一五号証の成立は認め、第三、第四号証の成立は否認し、第一〇号証、第一一号証の一は官公署作成部分の成立を認め、その余の部分の成立は不知、その余の成立は不知。

二  被告ら

1  乙第一号証、第二号証の一、二、第三、第四号証、第五、第六号証の各一、二、第七号証の一ないし八、第八号証、第九号証の一ないし六、第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二、第一三号証、第一四号証の一、二、第一五号証提出

2  証人山本啓之、同秋田秀雄、同野村藤二郎、同鈴木淑夫の各証言援用

3  甲各号証の成立を認める。

理由

一  請求原因1、2の各事実については当事者間に争いがない。

二  被告東税務署長に対する請求について

1  原告が訴外豊島と提携して韓国の商社と輸出取引をしていたことは当事者間に争いがなく、取引による利益の分配は、原告と訴外豊島が折半する約束であつたところ、係争事業年度に、被告署長主張(第二の三の1の取引表、ただし番号8を除く)のとおりの取引があり、売上利益、原告計上額が同被告主張のとおりであることは、原告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。

2  被告署長は、原告には右売上利益の二分の一に相当する取得利益(同表の番号1ないし6の取引)のほかに、バイヤー口銭の名目で支払われた受取手数料(同表の番号7の取引)特別口銭として支払われた手数料(同表番号8)等があり、結局原告は同表B欄記載の金額合計七、〇九一、〇八六円を訴外豊島から受取手数料として取得しているのに、原告は同表C欄記載の金額合計一、六九一、六三八円しか計上していないから、その差額であるD欄記載の金額合計五、三九九、四四八円は、原告が所得を脱漏したものであると主張し、原告はこれを争い、この五、三九九、四四八円は韓国側の代理業者金龍伯に支払つた斡旋手数料二、三九九、四四八円と訴外豊島が訴外正和繊維産業株式会社ほか一社に支払うべき口銭三、〇〇〇、〇〇〇円の合計額で、営業費用であると主張している。

(一)  まず原告と訴外豊島とが提携して行った輸出取引の実際についてみるに、成立に争いのない乙第七号証の一ないし七、証人秋田秀雄の証言により真正に成立したと認められる乙第一号証、証人浜田広一、同秋田秀雄、同山本啓之の証言によると、右輸出取引は、原告が韓国の商社と売買の条件を交渉し、かつ、国内の仕入先とも折衝して、その取引の内容を一応定めたうえ、訴外豊島が右商社と売買契約を結び、右仕入先から商品を買付けてこれを輸出し、仕入先に買付代金を支払い、商社から売買代金の支払を受けていたものであること、右輸出取引をする毎に原告と訴外豊島が前記のとおり売上利益を折半するが、その売上利益というのは右売買代金から買付代金を差引いた金額であること、輸出取引について船積の費用等は訴外豊島が負担し、また対韓貿易ではこれに関与した韓国の代理業者、商社に取引の都度斡旋手数料(バイヤーコミツシヨン)、口銭等を支払うのが常であり、その支払なくしては円滑に取引することが困難な実情にあるが、これは原告が負担するのが原則であり、したがつて訴外豊島および原告が折半した売上利益の中には各自が負担支出する右費用が含まれている計算になること、ただ時として右斡旋手数料、口銭については訴外豊島と原告が協議のうえ両名が負担することがあるが、その場合においてもこれを代理業者、商社に支払うのは原告であることが認められ、右認定を覆えす証拠はない。

(二)  次に取引表記載の各取引について検討する。前顕乙第七号証の一ないし七、成立に争いのない乙第七号証の八、証人鈴木淑夫の証言により真正に成立したと認められる乙第二号証の一、二、証人秋田秀雄の証言により真正に成立したと認められる乙第五、第六号証の各一、二、証人山本啓之、同秋田秀雄の各証言によれば、以下の事実が認められ、これを動かすに足る証拠はない。

(1) 取引表番号7の取引は、訴外韓国機械工具との取引であるが、この取引について原告から訴外豊島に対しバイヤー口銭一二一、八三四円(同表番号7のD欄の金額)を両名で負担することにされたい旨の要請があり、訴外豊島もこれを了承したこと、そして原告の申出により昭和四三年三月五日訴外豊島から第一銀行本町支店の訴外金名義の普通預金口座に右金額が振込まれたこと

(2) 取引表番号1ないし6の取引はいずれも訴外正和繊維産業株式会社との取引であり、この取引について原告は同年三月一二日頃FOB価格、仕入価格、売上利益、売上利益の析半額(同表番号1ないし6のB欄の金額)を記載した手数料請求明細書を作成して訴外豊島に提出したが、右明細書にはバイヤー口銭の額として同表番号1ないし6のD欄の金額が記載されていること

(3) 取引表番号8に該当する三、三八九、四五〇円は、輸出取引のため、原告が交渉のうえ、訴外豊島において、係争事業年度中に、訴外岡谷―株式会社から鋼板を大量に仕入れた際、三パーセントの値引がなされたので、訴外豊島もこれを原告代表者吉川の尽力によるものと認め、同年三月右値引相当額の三、三八九、四五〇円を特別口銭として原告に支払うこととしたものであること。

(4) 訴外豊島は原告に対し金銭債権を有し、その支払のため原告会社代表取締役である訴外吉川個人が提出した金額八、〇〇〇、〇〇〇円の約束手形を所持していたところ、訴外豊島から原告に支払うべき金銭を右手形債権の一部三、〇〇〇、〇〇〇円の弁済に当てることを原告が了承したので、(2)の明細書記載のバイヤー口銭と(3)の特別口銭との合計額から右弁済充当額を差引いた金額二、二七七、六一四円が、原告の指示により、同年四月一六日訴外豊島から訴外金名義の前記預金口座に振込まれたこと

(三)  以上の事実によると、取引表番号8の三、三八九、四五〇円は、訴外豊島と原告とが通常の取扱に従い売上利益を折半したのとは別に、特別の事情により、訴外豊島から原告に供与されたものであり、この中に原告が支払うべき斡旋手数料口銭が含まれていると考える余地もないから、その全額が、本件事業年度における原告の所得の脱漏と認めざるを得ない。

(四)  しかし前叙の事実、殊に対韓貿易においては取引の都度斡旋手数料、口銭を支払うのが常態であつたこと、原告と訴外豊島が行う輸出取引では右費用を原告が支払うことになつていたこと、取引表の売上利益というのは売買代金から仕入価格だけを差引いた金額であることなどの事実に徴すると、取引表番号1ないし7の取引について、原告が訴外豊島にバイヤー口銭であると表示した金額すなわち所得に計上しなかつた金額合計二、〇〇九、九九八円(以下本件金員という)は、少くともその一部が、原告において支払義務を負つた斡旋手数料、口銭に相当するものであり、したがつて事業遂行上必要な費用であると推測されないではない。

そこで被告署長が本件金員をすべて原告の所得であると認めるべき根拠として挙げる諸点(被告署長の主張2の(1)ないし(3))について、順次検討する。

(1) 本件金員が訴外金名義の普通預金口座に振込まれたこと、本件金員の一部が訴外豊島の訴外吉川に対する手形債権の一部弁済に充てられたことは、前記(二)の(1)および(2)に記した振込および弁済のいきさつ、ならびに次に記す(2)の事実からみて、本件金員が前記趣旨の金員であることを否定するものではない。

(2) 前顕乙第二号証の二、成立に争いのない乙第一三号証、証人鈴木淑夫の証言により真正に成立したと認められる乙第九号証の一ないし六、第一一号証の二および証人秋田秀雄の証言によれば、訴外金名義の前記預金口座の預金の一部二、三五〇、〇〇〇円については、昭和四三年四月中に、訴外吉川が自ら払戻手続をしていることが認められるが、右事実は、右口座の預金が被告署長の主張するように原告の預金であると疑わせる資料とはなりえても、前記振込額が前叙のような趣旨の金員ではないと断ずる資料となるものではない。

なお証人浜田広一、同秋田秀雄、同山本啓之の各証言によれば、訴外金は訴外吉川(韓国名金龍守)の実弟で、訴外豊島と原告が行つた対韓貿易に仲介業者として関与していたこと、訴外金は昭和四二年から四四年にかけて数回来日したことがあり、同人ら外国人は、来日した際の滞在費用、取引の支払等にあてるため取引先などに依頼して日本国内の銀行に自己名義の預金口座を開設しておく場合があることが認められるが、訴外金名義の前記預金口座の預金が、果して同訴外人のものであるか、或いは原告の預金であるか、両名のものであるかは、これを明かにする証拠がない。

(3) 被告署長の主張2の(3)は、本件金員が原告において支払義務を負った斡旋手数料、口銭に相当するものであることを否定する理由とはならない。

(4) 証人山本啓之の証言より真正に成立したと認められる乙第四号証(惣川調査第二部門統轄官宛の山本啓之作成文書)によれば、右書面には、訴外金名義の普通預金口座への前記振込は所得の隠ぺいであるという趣旨の記載があることが認められるけれども、右証言によると、山本啓之は右預金が誰のものであるかを知らないことが認められるから、右記載を根拠として、直ちに、本件金員が前記のような費用ではないということはできない。

以上のとおり、被告署長の主張2はいずれも理由がなく、他に本件金員が前叙の如き費用ではないと認めるに足りる証拠はないから、原告が取引表番号1ないし7の取引につきB欄記載の取得利益のうち本件金員二、〇〇九、九九八円を控除した残額のみその所得として計上したことを以て、所得の脱漏であると断ずることはできない。

3  すると、さきに二の2の(三)で認定した三、三八九、四五〇円については、原告の所得の脱漏を認めざるを得ないが、残金二、〇〇九、九九八円については原告の益金を構成すると同時に同額の損金があるとして処理するほかなく、これを所得とした限りで、被告東税務署長の本件更正処分は違法である。

三  被告大阪国税局長に対する請求について

1  被告局長が、本件裁決の理由として、原告主張のとおりの記載をしたことは当事者間に争いがない。

しかし、本件審査請求における審理の対象は、本件係争金額を原告の所得と認定すべきか否かの点にあり、それは韓国代理業者、輸出業者への口銭支払義務の有無、帰属の如何の問題に帰着するのであるから、このような場合には、認定資料とそれから認定した結論の記載があれば足り、認定資料の証明力の評価、心証形成過程までも記載する必要はないと解すべきで、原告の主張は失当である。

2  審理不尽のまま本件裁決がなされたとの主張については、成立に争いのない甲第三号証、証人野村藤二郎の証言によれば、本件裁決は、国税通則法等所定の裁決の手続を経て適法になされたものと認められるから、原告の主張は失当である。

四  結論

原告の本訴請求は、被告東税務署長がなした本件更正処分のうち申告所得額に原告の所得脱漏額であることの明らかな三、三八九、四五〇円を加算した所得金額五、〇一三、九五一円を超える部分の取消を求める限度で理由があるからこれを認容し、同被告に対するその余の請求、被告大阪国税局長に対する請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 鴨井孝之 裁判官 富越和厚)

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